「中華」。「中華二つ」。「中華にご飯」。「中華大盛り」。
ここに入ってくるお客さんは、みんな中華そばを頼む
うどんや蕎麦、カレーライスや丼物もあるのに、みんな中華そばを頼む。
そればかりでは、店の人もやりがいがなかろう。
僕はそう思い(本当は食い意地が張っていただけなのです)、昼からビール中瓶と牛すじ煮込みを頼んでみた。
濃い牛すじ煮込みに七味をかけ、こいつをあてに、ビールを飲む。
ほんのり気持ち良くなってきたところで、中華そばに、きつね丼(小)を、お願いした。
そのかんもお客さんは次々と入ってきて、「中華そば」を頼む。
やがて登場した中華そばは、昭和初期から事態が止まっていた。
醤油味の濃い、ちょっとしょっぱいスープ、細いストレートのやや柔らかい麺、たっぷりの青ネギ、薄く味付けたメンマが二切、薄く切った盤面の広い煮豚か二枚、そして茹でもやし。
個性があるわけではなし、無化調でもなし、行列ができるわけもなし。
だがある日無性に会いたくなる中華そばなのである。
そしてきつね丼は、甘辛く炊いた油揚とその煮汁を少しかけた丼で、その侘しさがたまらない。
一人静々と中華そばをすすり、きつね丼を掻きこむ。
時々テレビを見ながら、黙々と食べ、終わる。
ここはそんな姿が一番似合う。
京都「萬福」にて。