一匙すくい

食べ歩き ,

一匙すくい、口に滑らせる。
空気を含んだテリーヌは、ふわりと舌の上に着地して、ゆるゆる溶けていく。
その瞬間だ。

濃縮したオマールのすべてが口の中で爆発する。
肉の甘み、エビ味噌のコク、殻の香り。
それらすべてをまあるく包み込んだ風船が割れて、口を、鼻を圧倒する。
穏やかで、思いやりのある海の豊饒が、心をふわりと包み込む。
ガルニのリンゴのピュレと金糸瓜の甘みが、なんとも優美にテリーヌを支えている。
テリーヌを食べた後に、ニコラジョリーのクレドセランを飲めば、途端にワインがエレガントに輝きだした.。
これぞフレンチ。

フランス料理を食べに来たんだという喜びが、体中を駆け巡る。
もし僕が、今際の際をさまよっていたら、無理やり口をこじ開け、一匙滑り込ませてくれ。
生き返ってやるから。

「オマールのテリーヌ ダニエル風」。
三田「コートドール」。