「ボルシチです。中央のサワークリームを溶いてお召し上がりください。パンを浸してお召し上がりになると、おいしいですよ」。
「サラファン」の週替わりランチには、ボルシチがつく。最初に運んでくれた店主が、こう奨めてくれる。
なんとも色合いが美しい。透き通った茜色の液体が目に優しい。
飲めば、穏やかな滋味が、ゆっくりと広がっていく。一口だけで、喉が開き、心がほぐれ、厳しい外気にさらされた体が、上気していく。
この温かみのある味わいと色合いは、サラファンだけである。
牛と鶏と野菜のスープに、ビーツを加えるのだが、ビーツは色が壊れやすいため、他の野菜とともに、ピュレにして加えている。
具はキャベツとジャガイモだが、様々な野菜の味わいがとけ込んでいるからこそ、優しい気分を呼ぶのである。
この料理法は、初代の岡本かステリーニャさんから教わったのだという。揺るぎない民族の知恵がここにある。
ボルシチで心を座らせ、週変わりの料理を食べる。
細かな衣で香ばしく焼き上げられた鶏を味わい、ターメリックライスを食べる。
千円ながら、なんと豊かな時間だろう。
コートの襟を立てる季節のなると、サラファンに向かう。
創業来お茶の水の片隅で、人々の心を豊かにしてきた、真心を味わいに行く。