猛暑のため1万5000人が亡くなられたというワインにとっても最悪な2003年のクロドベーズは、酸が戻って熟成し、実にエレガントだった。
また、野バラの香りが漂うなか、土壌そのものを体内に取り込んでいくようなクロドベーズ2011年も、美しい。
さらに最初のムルソーは、トースト香とヘーゼルナッツ、カリンのような香りが爆ぜて、枯れたまろやかさと若々しい勢いの両方が溶け込んだ、うっとりとさせるワインだった。
しかし王女は、2003年のボマールであり、シャンベルタンである。
ボマールを一口飲んだ途端、あたりの時間が緩む。
新樽で2年寝かせて瓶詰めし、23年の時を経たマグナムは、何気ないような顔をしながら、底知れぬ力が潜んでいた。
鼻先から漂う香り、舌に流れ込む速度、口腔を舐める感触、喉から鼻に抜ける香り、胃の腑に落ちていく流動。
土壌、水、空気。
このブドウが生きた、命の証が静かに僕の血に流れこむ。
さらに松井オーナーのプライベートなコレクションから出していただいた、2003年シャンベルタンのマグナムときたら。
品格のある枯渇と熟成だけが持ち得る、微塵の淀みもない滋養が、口腔内の粘膜に接吻し、体中の細胞に染み渡っていく。
それでいて、摘みたてのぶどうを一粒口に含んでつぶしたような、生々しい勢いもある。
人生を重ね、老齢の域にさしかかった貴婦人が、少女のような笑顔を見せた時の、ときめきがある。
エネコで行われた、ドミニクローランのメーカーズディナーにて。