チョモランマのようなポテトサラダを
粛々と食べる。
お相手は、三岳のお湯割りだ。
日本最高峰のポテトサラダは、量は多いが、
マヨネーズに粒マスタードの酸味が効いていることと、
つぶれたジャガイモの大きさにかなり差異があって、
飽くことがない。
むむむとポテトサラダをなめ
ちびりと三岳をやりつつ30分かけて食べ終えた。
ここ、駒場東大前の老舗「菱田屋」は、
飲み屋ではなく定食屋なので、
どの皿も、すべからく量が多いのである。
カウンターには70代の頭の禿げたおじさんが一人
傍らのテレビを見ながら
冷酒の片口を傾けている。
肴は、鮭のカマ焼きに餃子だ。
後から隣に20歳後半の女性一人客が座った。
彼女は、肉野菜炒めに燗酒を頼み、
一人ぽつねんと時間を楽しんでいる。
後ろの席の先客は、大学生男女4人組。
東大生なのだろうか、そのうちの一人の男子がうるさい。
声が大きいうえに、鼻にかかっ高温で
耳障りなこと甚だしい。
一人の大人しい男子に
「お前の本当の性格が周りに伝わってないじゃん。
それって、相当損してないか」としつこく話している。
「だまらっしゃい」と席を立ちたくなったが、
こういう時期は、
普段頭に来るようなことも、幸せに感じることがある。
お隣に座ったのは
70代の老夫婦。
奥さんはウーロンハイで、旦那さんはお水。
奥さんが頼んだ、ぶり大根の煮付けと中トロの刺身が先に来ると、
旦那さんは少し箸をつけただけで
全て食べた。
食べ終えた頃に旦那さんの
「五目かけご飯」が登場。
すごい量を一心不乱に食べ終えた。
奥さんが旦那さんの口髭についた、五目のあんをふぃて上げている。
その後に来たのは
小学低学年の男子と母の二人連れ。
先に運ばれた母の「回鍋肉」を一口食べ
「おいしい」と叫ぶ。
「半分こっこしようか」という母の提案に、恥ずかしそうにうなずく。
彼が頼んだのは、これまた巨大な量の「油淋鶏」。
来たとたんに齧りつき
「おいしいっ」と、叫ぶ。
ポテトサラダを食べ、
小松菜お浸しから、餃子を食べ
最後に「ぶりの塩焼きポン酢おろし」で締めた親父は
そうした、凡々たる光景を眺めながら、
普段感じることのないほのかな幸せを
三岳の二杯目に溶かして、
ゆっくりと飲み終えた。