タコは、揉まれ、茹で

食べ歩き ,

タコは、揉まれ、茹で、冷水にさらされ、切られてもなお、生きようともがいているに違いない。
切られた断面は、真っ平らではなく、不規則に盛り上がっている。
粗塩と胡椒がかけられた一片を口にすれば、むちっと歯が入り、吸盤はシャキシャキと音を立てる。
そしてなんとも穏やかな、品のある甘みが滲み出て、我々の心を陽だまりにする。
こんなタコは初めて食べた。
味わいに透明感があって、雑味がない。
無垢の色気があって、箸が止らない。
これこそ獲れたてのタコならではの品格なのだろう。
しかも天下の明石のタコである。明石浦漁港で上がったばかりの上物を昼に食べたのである。これがゼータクといわずしてなんといおうか。
塩を使わず揉み、大根で叩くこともなく、5分ほど茹でたら氷水につける。
ただそれだけのことで、タコは、命のたくましさと純潔を人間に教え、まいったなあと唸らせるのであった。