クリームシチューが運ばれると、なつかしい気分になる。
それは家庭の温もりを思い起こすからだ。
わが家では、ビーフシチューは外食、クリームシチューは家で食べるものと決まっていた。
だから豪勢な気分に浸りたいときはビーフシチュー、忙しさから逃れて一息つきたいときにはクリームシチューという風に、シチューと付き合ってきた。
それはプロが作る、品が漂うクリームシチューを知っても変わらない。
ところがいま、クリームシチューは極めて希有な存在になっているという。
試しに都内の洋食屋さん二十数軒に尋ねてみると、用意している店は一軒もなかった。
家庭的な印象が強すぎるのか、ご馳走感が薄いのか、徐々にメニューから消えていったようだ。
しかしこの料理は、いやしを欲する現代にこそ、必要とされる料理ではないのか。
今一度この料理の復権を願いたい。
そこで「古川」である。
猛然と湯気を立て、グツグツ音を立てるかのように、煮立った状態で出される古川のクリームシチューは、家庭とは異なる一技がある。
素材のうまみを粉がふわりと吸い込んでいるのだ。
ゆるいグラタンといった濃度のホワイトソースの中に、魚介の味をにじみませた、プロの技が光る味わいである。
ソースの穏やかな甘さと魚介の味が相乗して、ご飯が恋しくなる。
先日も食べていたら、隣でビーフシチューを食べていたお客さんが、こちらをうらやましそうに見ていた。
「ちゃっくわごん」のクリームシチューは、ほのぼのとした味わいである。
とろりとした濃度のソースを野菜やエビにからめて食べれば、口もとが緩んでいく。
きめ細やかなソースの甘みと素材のうまみが安らかに手を結んだやさしさのせいだ。
中でも、ほっくりと煮込まれたじゃがいもとの相性がよい。
さらには、親しみを感じるサービスが、家に招かれてご馳走を受けているような気分にさせられ、このシチューのおいしさを、いっそう輝かせている。
フランス料理のクリームシチューも欠かせない。
ブランケットという、仔牛や仔羊、鶏肉のクリーム煮だ。ビストロ定番の惣菜料理で、毎日食べても飽きない暖かさと力強さを込めた料理である。
「バ・ザ・パ」のブランケット・ド・ウォーは、その精神を受け継いだ堂々たる皿。
まずは、ほろりと崩れる仔牛のゼラチン質とクリームソースの粘度がぴたりとあう食感に、思わずにこり。
次に仔牛のやさしい滋味をクリームのコクと甘みが盛り立て、食欲をあおってくる。
付け合せも上等。
出来ればスプーンをもらい、バターライスをからめながら、ソースと肉をほおばるようにして食べよう。
写真はイメージ