港区麻布十番「ぎん香」 弁当屋へ転身

「鰯丸干し定食」千五百円

食べ歩き ,

日本の郷土料理や昔ながらのご飯。世の中はいま、そちらのほうへ流れている。

例えば下北沢の「七草」や三宿の「GOKAKU」がそうだ。魚を一切出さず、豆や根菜類のいたわるような滋味を伝える料理を出す。

西荻窪の「のらぼう」も同じく、しみじみとおいしい野菜や豆類の風味を前面に押し出した料理をそろえた店である。または、青山「上田米殻店」、白金「心米」など、米に一番力点を置いた店も増えてきた。今回ご紹介する「ぎん香」も、そんな世の流れを象徴する店ではなかろうか。

麻布十番や銀座で定評を呼んでいる自家製干物の「あん梅」の新店である。

店に入るとまず目に付くのが竈、紅殻で焼き付けた竈と炭火の炉である。竈の火床には、薪がくべられている。

数種揃う焼き魚定食から「鰯の丸干し」を注文した。すると店頭の干物売り場より、丸々太った鰯の丸干しが運ばれ、炉の火にかけられた。目前で焼かれていくのを待つ間に、つけ合わせが運ばれる。

平目の造り、菜の花白和え、くわいの素揚げ、大根と豆腐の炊き合わせ、出し巻き卵など。なんと平目は、木製の氷式冷蔵庫より出されて盛られた。

やがて真打登場。頭からバリッとかじれば、鰯は苦味と凝縮したうまみで答え、一粒一粒自立しながらほどよく固く、かみ締める喜びを思い出させてくれる甘みにあふれた薪炊きごはんが、そのうまみを受け止める。質素な食事こそが贅沢になってしまっている時代を、複雑な気持ちでかみ締めた。

 

写真はイメージ