巣鴨・古奈屋
今や都内に数店舗展開する、人気カレーうどんの店。本店を推薦する理由は、まずこの店の「もり」七百五十円を食べてほしいからだ。光沢のある細打ちのうどんは、滑らかな食感と、もちっとしたコシがあり、噛むと塩気の中にほのかな小麦の甘さがにじみ出る。古奈屋というと、カレーうどんのクリーミーさばかりに話が寄るが、このほのかに甘みを感じさせるしなやかなうどんと、カレースープの味が見事な相性をみせているからこそ、人々を引き寄せるのだ。もちろん二日間煮込んで具も溶け、分子同士が手を組み合って、まあるい味になったカレースープも、飲み進にしたがって旨味が増し、最後の一滴まで飲ませてしまう。シンプルなカレーーうどん千円のほか、もちカレーうどん千百五十円、えび天カレーうどん千三百五十円などあり。チェーン店には面白い相性のバナナカレーうどん千三百円もある。
麻布十番・くろさわ
赤坂のそば店が出したうどん屋。「黒豚カレー南蛮」千二百円を頼むと、まず出されるのが紙エプロン。存分に気がねなく食べてくださいという店の心遣いに、胸ときめかせながら待っていると、香り高きカレーうどんが運ばれる。一口すすれば、ガラムマサラの香りが鼻に抜け、胃袋をくすぐる。和風だしと洋風のダシがきれいに混ざりあった味わいは、ご飯やナンと同様、コシの強いうどんと見事にタッグマッチを組む。具は肉厚の豚三枚肉のスライスが三枚。とろりとした食感に煮込まれた豚の脂身が甘く、力強いカレーの旨味とあいまって、忘れがたい印象を残す。炒めネギ、ピーマン、茹でエビをのせた「エビカレー南蛮」九百円もおすすめ。
浜田山・原や
名おでん屋「たこ石」が、酒飲みのツボを心得た酒肴の揃えはそのままに、一昨年九月よりうどん屋に。それら酒肴で飲んだあと、しみじみとダシのうまさが染み渡る「きつねうどん」七百五十円などでしめるのも魅力だが、どの店もない独創的な「カレーうどん」九百五十円をぜひ。その姿とは、讃岐風のダシを張ったうどんの上にドライカレーソースがかけられているのである。そのドライカレーは、インド見せ顔負けのスパイス香に満ちていて、下と鼻をキックし、汗をにじませ虜にする。一方でとんがったところがなく、まろやかにうどんとなじむ。またドライカレーから染み出した汁は、ダシに溶け込み上品なカレースープとなり、最後の一滴まで飽く事なく飲ませてしまう。汁なし「ドライカレーうどん」九百五十円もぜひ。
築地・虎杖
築地場外市場、細い路地にあるカウンターのみのうどんやさん。京都の料理屋経営による上品なダシを使ったうどんと質の高い天ぷらがいただける。「カレーうどん」八百円は、具なし、スープだけの勝負。そのスープは牛乳とバター、さらに仕上げにそそがれた生クリームが効いたクリーミーな味わいで、色も穏やか。最初はまろやかな口あたりだが、食べ進にしたがってカレー香の刺激やダシの旨味がわき出てくる。さすが京都割烹出身。表面ははんなりしとやかでも、芯は強い、京女の如きカレーうどんだ。プリッと弾むような食感の小エビや、身厚の穴子の天ぷらを上にのせたカレーうどんも魅力。
一ツ橋学園・むぎきり
無漂白、地粉で打った、薄茶と灰色が混じりあった色合いの、強力なコシを持つ素朴で野性味に富むうどんがいただける。訪れたら、ぜひ「もり」五百円を食べ、温かい種物に進んでもらいたい。温かいうどんでもコシは失われず、一本一本が歯にめり込むように、ギュギュッと音が立つかのようなコシがある。そんな勇壮なうどんの小麦粉の甘みを生かすように、「カレーうどん」八百円のスープは、辛さをひかえた穏やかな味わいで、シメジ、人参、インゲン、ネギ、大根、豚小間など、沢山の具が味をもり立てる。
阿佐谷・和田
青梅街道沿い、夫婦で切り盛る讃岐うどんの店。「カレーうどん」九百円は、肉きざみうどんにカレー粉を耳掻き二杯ほど入れただけのシンプルな作り方ながら、ベースのいりこダシの味がしっかりとしているので、カレーが浮き立つ事なくすんなりとなじんで、ほのぼのとした味わいを生み出している。太打ちのうどんは、もっちりとしてスープとの相性もよし。「辛くして」と頼むのも、「穴子天」五百円、「ちくわ天」三百円を追加してトッピングするのも一興。
銀座・泰明庵
ご存じ老舗格のおそば屋さん。「カレーうどん」七百円は、かけつゆの甘汁主体の味わいに、カレー香がひりりと利かせ、かたくり粉でとろみをつけた、伝統的そば屋風カレーうどんだ。色も濃い茶色したおなじみの姿。面白いのは「芹カレーうどん」千円。注文すると「根っ子もつけますか」と効かれるが、すかさず「もちろん」と返事。根っ子つき芹は、鼻に抜ける野趣に富む香りがあって、苦味とともにアクセントになってクセになるはうけあい。同様に「舞茸カレーうどん」千円も丸。
御茶の水・竹や
歯ごたえのいい、質の高いうどんを出す店として、界隈位置の人気店。夜は酒肴を数多く置いて居酒屋に変身。昼の人気が「カレーうどん」九百円。古奈屋のように、胃の腑をくすぐるカレー香の高さと、クリーミーな味わいが同居した、後を引くカレースープがなによりの魅力。うどんとの相性もよく、具は豚小間に、ネギにインゲンといたってシンプルなところも小気味よい。
新宿・かのや
東南口を下って正面にある立ち食いそば・うどん店。立ち食いながら質の高いうどんを出すと店として定評あり。「カレー南うどん」四百八十円は、昨日のカレーが残ったのでそばつゆ足して温めました、といった風な、辛さが尖ることない、丸くほほえましい味わいがいい。うどん自体も立ち食いとは思えぬもちもちとしたコシがある。具は豚肉に野菜。都内にほか五店舗あり。
表参道・しまだ
こちらも昼はうどんや夜は酒亭の二毛作。昼に出かけるとほとんどのテーブルで食べているのは、「カレースープうどん」八百円。具なしスープだけで魅了するその実体は、丹念に炒めたタマネギの甘み、二十八種類のスパイスによる香りの深さ、鶏ガラ豚骨、香味野菜によるだしのコク、牛乳によるなめらかさと甘み、かけ汁の塩気とうまみなどが見事に溶け込んだ味わい。一口また一口と飲み進み、食べ進むごとに味にとらわれて、気がつけば丼は汁もなく空っぽという、加速度を呼ぶ魔力と常習性をよぶ危険なカレーうどんである。