カツ丼は、ご飯の汚れがポイントである。
汚してはならない米粒を。丼タレが汚している。
その罪悪感が食欲を呼ぶ。
しかし汚しすぎてもいけない。汚さなくてもいけない。
適度な丼タレしみ具合が重要で、それが卵とじカツとの一体感を生む.
王道カツ丼もソースカツ丼もしかりで、汚れちまった悲しみをしみじみ味わうところに、男の人生をかぶせるのである。(すいません、ちょっと大げさでした)
ところがデミグラスカツ丼はどうだ。
汚れがほとんどないではないか。
うまい。たしかにうまいが、これでは、デミグラスのかかったカツとライスを食べているのとかわらないではないか。
器が違うだけの問題でしょうか? と丼が嘆いている。
なので僕は、一切れカツを食べると。ソースをご飯にまぶして汚してやった.
甘くほんのり酸味のあるソースが米と馴染んで茶色くなった。
カツと一緒にほおばる。
カリッ。
高温でサクッとあげられた「やまと」のカツが歯と歯の間で音をたて、ねっちょり汚れたご飯が後を追う。
うん、これでいい。
東京からのよそ者は、大きくうなずいて箸を置いた。