森下「山利喜」

もつ煮込みの誘惑

食べ歩き ,

「煮込み」。

この三文字に弱い。

居酒屋にあると、真っ先に頼んでしまう。

理由はまず第一に、内蔵が好物であるから。第二に、ビール、酒、焼酎、ワインと、相手を選ばぬエライ奴だから。

第三に、様々な食感が楽しめて、一皿だけで酒がじっくり飲めるから。

そして最後に、店主の心意気が詰まっているからである。

なぜなら、煮込みは最も手間のかかる料理の一つなのだ。新鮮な内蔵を入手し、丹念に下処理と下茹でをし、長時間かけて煮込む。

つまり、それだけ手間をかけてもおいしいものを食べさせようという、店主の心意気も煮込まれているのである。

味わいも千差万別。味噌味あり、醤油味あり。豚あり、鳥あり、牛の内蔵あり。

白あり、焦げ茶あり。スープ状態あり、汁気なしあり、溶岩状態あり。

煮込みは、店主の考えと心意気を表現した、いい居酒屋を選ぶバロメーターなのでもある。

いい居酒屋にうまい煮込みあり。

この理念を教わったのが、東京三大煮込みと称される、北千住大はし、月島岸田屋、そして今回ご紹介する山利喜だ。

創業七十数年の老舗格の居酒屋だが、名物煮込みは三代目のご主人が進化させ、さらなる人気を呼びこんだ。

臭み消しに香草を束ねたブーケガルニを使い、隠し味にポートワインを投入したのだ。

一口大に切ったギアラ(第4の胃袋)と大腸を、半日かけて作られる煮込みは、実にまろやか。それでいて人を魅了する深いコクがあって、虜にさせてしまう魔力がある。

唐辛子漬けウォッカを振りかけ、ガーリックトーストにソースを絡ませながら赤ワインを飲む。はまりますよぉ。

お次は、東京の最大煮込み激戦区浅草より、さくまを紹介したい。

さくまの煮込みは牛すじ主体。

大振りの牛すじが、焦げ茶色のどろりとした汁にごろごろと入っている。

一口飲んで目を丸くするのは、味の奥深さ。

上質の牛すじならではのゼラチン質が、うまみとなって汁に溶け込み、舌にとろりとからみつく。溶け込んだ脂も甘く、味わいが食べ進むにつれて膨らんでいく。

どこか品も漂って、こりゃあまるで和製ビーフシチュー。

酒が進んでたまらぬが、ご飯も恋しい逸品だ。

写真はイメージ