もうこんな店はできないかもしれない。
タイ料理屋なのに、トムヤムクンもプー・パッ・ポン・カリーもゲーン・キヨウ・ワーンもガイ・ヤーンもない。
大体多く日本にあるタイ料理屋は舐めている。
こんな代表的な料理を並べておけば大丈夫だろう、現地のような発酵した米を使わくてもわからんだろう、旨味には白い粉いれちゃえと、日本人を舐めている。
しかしこの店は、聞いたこともない料理が多く並び、佐藤さんによる発酵肉を使った料理も、数多くある。
しかし珍しくとも、どれもタイ人が日常に食べている大衆食なのである。
まあ外国で日本料理屋に入っても、ナス味噌炒めやかぼちゃ煮、鯖味噌やひじき煮、ナポリタンやハヤシライスがないのと一緒かもしれない。
とにかく現地なのである。
「アカシアの葉っぱ入り玉子焼き」は、葉の香りが良く、かすかに入った発酵肉が効いている。
次に「軽く湯引きしたエビの甘辛ナンプラーソース」と行って、
まろやかでうまい「イカのレッドカレーペーストソース炒め」を食べているうちにたまらなくなり、早くもジャスミンライスを頼む。
「発酵仔羊とチンゲンサイ炒め」は一筋縄でいかない子羊の旨味と柔らかさが青梗菜と弾み、甘辛い味で炒めた「イベリコ豚の焼きラープ」は、歯を押し返すような肉の食感と炒め汁の深いうま味が、たまらないね。
甘く、鹹く、辛い、「ピータンのガパオホーリーバジル炒め」は、ピータンをぐちゃぐちゃにつぶして食べると良く、これも大至急ご飯である。
「イサーン式牛もつにこみ」は、「辛くして」と頼むと、お父さんが「辛く?」と再確認するので、頷くと、嬉しそうに微笑む。
ああ様々なモツの食感が、辛酸っぱいスープの中で弾けて行く。
そして最後は、その辛さを癒すために、裏メニューの「ジョーク」を豚肉でお願いした。
豚スープのおかゆである。
卵を落とした優しく丸いスープに、カーの辛味が少し効いて、満腹なのにスルスルと入っていく。
明日も食べたい。毎日食べたい。
そう思わせるから、大衆食なのだろう。
奥さんが材料を切って手渡し、ご主人が作り、奥さんが仕上げする。
連携プレーは見事で、開店当初の微笑ましい夫婦喧嘩も無くなった、夫唱婦随の味わいは、もう味わえないのかもしれないのだ。
悲しい。
お粥の後に、数ヶ月前に行った時の料理も写真では載せました
渋谷「パッポンキッチン」
2018閉店