舌の上で、

食べ歩き ,

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舌の上で胡麻豆腐は、大地へ帰っていった。
ほのかに甘い香りを漂わせながら、溶けていく。
そのまますぐに喉へ落ちていくのではなく、口の中の細胞に染み入っていく滋養がある。
もう一度胡麻豆腐を舌に乗せる。
すると豆腐は、ふるると腰を振り、「出会えてよかった」と呟く。
胡麻をすり鉢で一時間以上かけてする。
「うちの料理で一番仕込みに時間かかっている料理です」。
「六雁」の秋山能久さんは言って、静かに微笑む。
秋山さんは「月心居」の棚橋俊夫さんに師事された方である。
月心寺の村瀬明道尼さんにも学び、寺の集りの際には3時間胡麻を摺り続けていたこともあるという。
「ある時点からいつ終わるのだろうとか疲れたと思うのではなく、無になっていきました」。
客のことを思い、ひたすら摺る。
胡麻という命を成仏させる。
秋山さんの野菜料理は、華やかで精緻である。
手間を丹念にかけて、華やかさと精緻を生む。
「君がため」を想い、料理という命を預かる仕事の重みを肝に銘じながら作られ、心に届く。