なんというスープだろう。
底が見えないほどのうま味の深さがありながら、さりげない。
様々な滋味に脂やコラーゲンが溶け込みながらも、微塵も感じさせず、朝露の如く隅々の細胞へと入り込んでいく、清明さがある。
花膠燉響螺。 世界貿易ビル最上階にある会員制レストランでの、一つの暗いマッククスだった。
魚の浮き袋とホラ貝という二つの高級食材を使ったスープは、一同を黙らせる。
あまりのうま味の輝きに、飲んで直ちに「おいしい」と口に出せない充足があって、黙ってしまう。
しかしその後に、「ふうぅ」と溜息を漏らし、「おいしい」と囁かせる。
そして知る。
それこそが、料理の品性だと言うことを。