銀座「ラフィナージュ」

どうしてもいつもエッチなのか?

食べ歩き ,

この人の焼く肉は、どうしてもいつもエッチなのだろう。
噛むたびに、飲み込むたびに、心の底に眠るなにかを扇情する。
それは新しく取り入れたという炭床で、時間をかけて焼かれていた。
近江牛のシンシンである。
炭火で焼くと言ったら、サカエヤの新保さんが、シンシンを送って来たのだという。
シンシンは、勇猛そうに見えるが、実はナイーブな肉だと思う。
炎の香りがついたり、焦げがあってもおいしいが、もっと内部にある繊細さを引きだそうとしたのか。
噛めば、歯が肉に抱きしめられる。
「離さないわよ」という感じではなく、「あなたに会えてよかった」と、微笑みながら、ハグされる。
それからゆるゆると肉の香りが、滋味が染み出し、噛むごとに膨らんでいく。
その滋味と香りは、牛肉から連想される勇猛ではなく、優美さが伴っていて、心を焦らされる。
これがシンシンの真実なのか。
しなやかな色気といった風情が、たまらない。
この色気を、ポワブラードソースが絡んで膨らまし、「ああ、大至急、いい赤ワインをください。お願いします」という渇望を生み出すのであった。
実はそのソースやデュクセルに、香りの魔術がかけられているのだが、そんな分析はもはやどうでもいい。
ソースを絡め、肉をかじり、赤ワインを飲む。
今はこの幸せに、心から陶酔をしよう。
銀座「ラフィナージュ」
Cuissot de boeuf rôti, sauce au poivrade et champignons de Paris
近江牛シンシンのロースト、黒コショウのボワラブードソース