どうしてこんなに、優しくなれるのだろう。
どうしてこんなに、心がほぐれるのだろう。
カリリ。衣が音が立てる。
芋が穏やかな、大地の甘さを滲ませる。
牛肉が、ひっそり滋味を忍ばせる。
そのとたん僕は、ぬるま湯に浸かって体が弛緩する。
遠く昔からの温もりが、ゆったりと戻ってくる。
余計な味が一切ない。ジャガイモと牛肉を信頼しきった味がある。
パン粉は、国内小麦粉、粗糖、天然酵母、海塩、添加物なしで特製したもの。
ジャガイモは無農薬、牛肉は信頼おける肉屋で手挽きしたもの。油は菜種油。
でもそんなことは、一切うたっていない。
コロッケ2個と切り干し大根の煮物、玉子焼きに果物、ご飯に味噌汁がついて、千円。
料理の値段のコストパフォーマンスがどうのこうの言っている輩に、食べてもらいたい。
真っ当とはなにか。今の時代真っ当を貫くことは、いかに値がはることか。
「来年で10年になります。どうにかやってこれました。今は夜はお休みしているので、赤字ですが、頑張ってやっていきます」。そう女主人は言って微笑まれた。
日本に、こんな食堂がたくさんあればと、切実に、思う。
渋谷ひまわり亭にて。