その一切れを、口に含んだ瞬間、海の中にいた。
オマールが凝縮して、舌の上でうごめいている。
他の味は一切ない。
オマールは純を極め、自らの味だけを、丸く優しく濃密にして、口の中で膨らませては、消えていく。
オマールをそのままではわからない、命の凛々しさや切ない色香を放ちながら、消えていく。
限りなく美しい。
「はあ」。一口食べるたびに、息が漏れる。
「ふう」。この幸せな時が永遠であって欲しいと思う。
三田「コートドール」 「オマールのテリーヌ ダニエル風」
エビが大好きだったマダムを思い浮かべて、作られ続ける冬のスペシャリテである。