「くわいは大人になって、ようやくおいしいと思ったのよね」と、マダムは笑った。
ぽくっと齧れば、栗に似た香りが優しく鼻に抜け、ほっこりとした淡い甘みが続いて、心を焦らす。
吐息のようなかすかな甘み。目をつぶらないと気がつかない柔らかな甘みは、くわいの息吹だろう。
息吹の陰には、静かに佇むほろ苦みがあって、甘みの尊さに気づかされる。
その機微なる味は、やはり大人にならないとわからないのかもしれない。
わかった大人は、マダムは、その風味をいとおしんで作る。
だしのうま味や香りを、誰も気がつかない程度に、そっと忍ばせる。
温かいだしの中で、くわいがくつろいで持ち味をすべて出せるように願った味である。
大人の味である。
みな美にて。