この店に来て、毎回あん肝を食べるたびにため息が出る。
満ち足りた感情が息となって、ふうっと口から抜けていく。
微塵もえぐみなく、雑味もなく、純粋な柔らかい甘みだけが存在して、官能を刺激する。
そこへ火の鳥を流し込めば、貴醸酒と抱き合ったあん肝は、妖艶となって心を焦らす。
ふうっ。
またため息ひとつ。
「何回いただいても、初心のように痺れてしまう。こんな完璧なあん肝を、僕は他では知りません」。そう言うと
「ありがとうございます」と、低い落ち着いた声で杉田さんは答えられた。
すかさず
「よほどいい缶詰を使われているのですね」と、冗談を言うと
大笑いした後、
「やはり明治屋でないと」と、冗談で返された。
そんな冗談を言い合いながら食べるこの空間が、たまらなく好きだ。
もうひとつ大好きな、かずのこの味噌漬けとともに、松の司の山廃の燗酒を呑む。
水天宮「すぎ田」にて







