初めてこの店を訪れたとき、
めくるめくステーキの味わいに、
スープやコロッケなど、正統洋食の品の高さに圧倒されて
「おいしかったです」としか言えんかった。
ただただ一文字に力をこめて 「おいしかったです」と笑顔でシェフに伝えた。
すると、大島シェフは、
「一番おいしかったんは、ガーリックライスでしょ」。
にっこり笑った。
はは。
冗談もうまい。
高級料理屋なれど、大島さんを始め、マダム、スタッフの腰の低さ 気さくな応対が 客を一体化させ、 うまいもん食ぞという熱気が、店に渦巻く。
今日の突き出しは 牛肉の佃煮風煮こごり。
はははっ。
これだけでご飯一膳食えちゃうなあ。
岩牡蠣つるんで白ワインごくり。
牛刺し食べて彼方ゴールのステーキへ、思いを馳せる。
おっと今度は毛蟹を茹で上げるや、丹念に ほぐしほぐして、名物カニコロッケの登場だあ。
ああナイフを入れるときめきたまらない。
蟹の身ごっそり現れて、ハフハフほおばれば、全身蟹の香りに包まれる。
一同笑いを堪えきれず、顔がだらしない。
付け合せのセロリアックも心憎い。
おっとここらで箸休め。
サラダでいったんリフレッシュ。
これまたドレッシングの酸味と塩気がピタリと決まり、
葉類は新鮮、シャッキシャキ。
ゆり根の甘さに、心緩む。
さあいよいよ主役の登場。
サーロイン様のお通りでえ。
噛めば溢れる牛のジュース。
甘く、たくましく、肉好き心を奮い立たせる。
ほんのり乳の香りの優しさもまとって肉は胃の腑に落ちていく。
添えられたナイフが秀逸で切り捨て御免とスパスパ切れる名刀だ。
ゆえに食べ終えてもごらんの通り肉汁一滴残らない。
最後はこれも名物ガーリックライス。
黒胡麻の香り利いて、パラパラもちもちたまらない。
にんにくの香りの利かせ方がよく、
食べれば食べるほど食欲湧く、不思議なご飯。
その成果もあって カレーをおかわりしちゃいました。
これがまた危険なカレーなのよ、山口さん。
ぺろりと平らげ、 厨房内に発見コーンタン。
それを「焼いて」とわがままいえば 炭火で焼かれた舌が出され熟成タンの香り楽しむ。
最後はこれも定番チーズケーキ。
しっとり舌にしなだれかかって、今日もよく食べたねとお褒めにあずかる。
「ありがとうございますう」。
店の外まで見送りに出てくれた、シェフの他意なき笑顔忘れない。