日本最古の雲丹商「天たつ」から「粒雲丹」が届いた。
雲丹を一つずつ、正確かつ精妙に塩を打ち、熟成させたものである。
これで約10数個分があるという。
楊枝で一晩粒取り、口に入れる。
噛まない。
舌の上に乗せたまま、上顎に優しく押しつける。
雲丹は口の中の温度でゆっくりと崩れ、溶けてゆく。
水分はもはやなく、微かな雑味もない。
甘みという一点だけが濃縮して、舌に味を伸ばしていく。
「はあ」。
体から力が抜け、ため息ひとつ。
次に、上前歯の裏側につけて、酒を少しだけすすつてみた。
雲丹が少しずつ、酒と入り混じる。
甘みと甘みが抱き合い、時間が止まる。
時が艶美となって、脳に霞がかかった。