「天然ウナギが入るんです」

食べ歩き ,

「天然ウナギが入るんです」。そんな一言を聞いて
「うな丼が食べたい」。というわがままを、イタリア料理のシェフに放言した御仁がいる。
「任せてください」。
挑戦欲が強く誠実なシェフは、一も二もなく答えたという。
わがままのおかげで、僕らは鰻料理に出会えた。
穴子料理だけではなく、素晴らしきパッパルデレや豚肉にも出会えた。
その豚は、豚とは思えぬロゼ色の肌を見せ、「早く食べて」と誘ってくる。
有史以来の原種黒豚であるビゴール豚を、骨つきのまま熟成させて3週間、甘いナッツ香が漂い出したところを、焼いて出す。
ああ、鼻腔にしなだれるような甘い香があって、肉汁は凛々しく、食欲を奮い立たせる。
そしてうな丼である。カリッと地焼きしたウナギには、ジャスミンライスを合わせ、ポルト酒、赤ワイン、フォンドヴォー、金目のフュメ、マルサラ酒を合わせ煮詰めたソースと、卵黄に金目のフュメ、マルサラ酒を合わせたソースを添える。
舌の上で爆ぜる、ウナギの滋味と、口に溶けゆく豊かな脂の甘みを、ソースの深いコクが持ち上げ、ご飯が優しく受けとめる。
まさにうな丼である。
六本木「ブリアンツァ」にて。