少し前まで、タンメンはいじけていた。
30年前は、ラーメンと並ぶ大スターだったのが、すっかり衰退傾向にあったからだ。
ところが最近、復活の兆しが見え始めたという。タンメンを出す店が増え、さらには専門店まで出来たのである。
脂過多系、大盛り肉食どっかん系ラーメンへの反動だろうか。俄然「タンメン」が元気になってきたのである。
「タンメン」の魅力は第一に、野菜類が生み出す「シャクシャク」にある。
緬とスープの上にそびえ立つ、キャベツ、もやし、人参、ニラ。顔を近づければ、野菜の甘い湯気に包まれて、思わず目を細める。
タンメンは、まずスープでも緬でもない。まず野菜から食べ始めなくてはいけない。
野菜をある程度食べないと麺にたどり着けないという、構造上の問題もあるが、まず野菜から食べることにより、「タンメンを食べているんだ」という、喜びを漲らせなくてはいけないからだ。
野菜を口にすると、「シャクシャクッ」と、野菜が叫ぶ。え?「シャキシャキッ」じゃないかって?いや、「シャクシャク」だ。
「シャキシャキッ」は、生野菜の水分が弾けるグルマトペ。
一方「シャクシャク」は、みずみずしさを残したまま加熱され、甘味が引き出された野菜たちの、「どうだ、おいしいだろっ」という合唱なのだ。
ちなみに、もっと加熱されると、「シャクタクタ」。さらに進むと、「クタクタ」。完膚なきまで火を通すと、「グズグズ」となり、これを野菜グルマトペの五段活用という。
それぞれに良さはあるが、「シャクシャク」には、野菜の生命力をダイレクトに感じ、食欲を湧き上がらせる力がある。
そんな野菜を無心で食べ、麺をすすり、スープを飲む。その間「シャクシャク」鳴り止まず。
このグルマトペは、気分を愉快にさせる。食べ終わった後も、しばらく音が頭の中に残って、数日たつと無性に食べたくなる。
これはタンメンだけの特権だ。食べている間中鳴り響く、「シャクシャク」という軽快な二拍子ダウンビートが、心に弾みをつけるのである。
「シャクシャク」、「シャクシャク」と、噛めば噛むほど、野菜の慈愛は満ちていく。
野菜の優しい甘みが溶け込んだスープが、体を芯から温め、幸せな気分にさせていく。
体は上気し、豊かな気分だ。
その時気づく。「シャクシャク」は、食感が発する音だが、それだけではない。「もっと野菜をとらなきゃ駄目よ」という、母のような愛情も込められていることを。
<短時間加熱野菜活き活き系>
短時間で加熱された野菜より発生。野菜の生きた甘味が凝縮して発する。特にタンメンを食べる時に、大量発生することが観察されている。
シャクシャク採取場所「タンメンシャキシャキ新橋店」。
キャベツ、もやし、人参、ニラがたっぷりと麺の上に盛られる。炒め煮ではなく、スープ煮のため、あっさりと野菜本来の味が楽しめる。平打ち縮れ太麺との相性も抜群。おろし生姜を入れるとなおうまし。