Solong vol1
さようなら。
あなたの可愛い笑顔が好きでした。
時折出される、下ネタが好きでした。
どんなに注文が込み入っていても(いつもでしたね)、焦ることなど微塵もなく、淡々と手を進められる仕事ぶりが好きでした。
食事時間が5時間くらいかかってしまっても、誰もイライラすることなく、にこやかに飲んで食べている。そんな店の雰囲気が好きでした。
みんなが料理の向こう側にいる、あなたを愛している。
そん気配が好きでした。
カウンターの上が雑然としていて、家庭で揃えるような調味料が平気で置いてある。そんな親しみやすさが好きでした。
ああ今夜は食べたぞ、飲んだぞと思っても一万円以下で収まる価格も好きでした。
昨夜は一人一本以上ワインを飲み、食後酒まで飲みながら、片付けもあるというのに2時まで与太話で盛り上がりましたね。
食後のあの、かけがえない時間も好きでした。
インタビューをしたいと言ったら、「俺なんか大したことない人生だから」と断られる。その言葉が素敵でした。
昨夜は、「店を辞めて落ち着かれたら、場所を用意しますので料理を作ってください」と、厚かましくもお願いしました。
「いやしばらく料理から離れたい。まだ全然わかんないけど、ずうっとこれしかやって来てないから、別の仕事しようかな」。
そうおっしゃって、照れ笑いした顔が好きでした。
生地をその場で作って焼くタルトフランベがおいしく、冗談で「おかわり」といったら、「え? 今心臓が止まりそうになった」と返すあたりも好きでした。
そして何よりも料理が好きでした。
洋食とフランス料理の中間で、いい意味でゆるく、温かい。
そんな料理が好きでした。
何十年も走り続けてこられた道も、あと4日間ですね。
毎日毎日小さな厨房に一人で立ち、一人でこれだけの料理を仕込み作るのは、想像を超える苦労があったのでしょう。
でもそんなことを微塵も見せないあなたが好きでした。
いつか気が向いたら、また料理を作ってください。とっておきの下ネタを用意して待っています。
さよなら成田さん。
成田さんの料理は別コラムを参照してください
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