物語は、アラから始まった。
塩をし、冷蔵庫で半日風を当てたアラの切り身で、青く硬い梨の薄切りをくるむ。
上には、フィンガーライムを10粒ほど乗せる。
アラは、余分な水分だけがぬけ、ねっちりと味を深めている。
そこへシャキッと甘くない梨がみずみずしさを弾き、ライムが酸味を添える。
その対比によって、アラはさらに、色気を増すのだった。
続いて、鮎のブロードが出された。
一口飲んで、言葉を失う。
玉ねぎの皮と焼いた鮎からとったという液体には、鮎のすべてがあった。
塩焼き鮎の香り、繊細でささやかな甘みが、舌を包み込む。
添えられたのは、素揚げしたズッキーニと肝をバターで固めた細い棒である。
これを口に含み、スープをそっと入れる。
スープ、ズッキーニ、肝が入り混じる。
その途端、焼いた鮎の肝を食べた感覚と、川藻の青臭い香りかほのかに漂い始め、僕らを清流の川辺へと運んでいくのだった。