おいしい焼餃子には、四拍子の喜びがある。
第一は、香ばしく焼きあがった皮に、カリッと歯を立てる喜び。
第二は、もっちりとした皮に、歯が包み込まれる喜び。
第三は、中から飛び出す熱い汁を、受け止める喜び。
第四は、よく練られた餡の、豚肉のうまみを味わう喜び。
焼き餃子は、この明快な四拍子があるからこそ、日本の餃子界で、燦然たる地位を築き上げたワケである。
ビールを何杯も飲ませ、猛然とご飯を掻き込ませてきたワケである。
四拍子の中でも、もっとも多くの人を引き付けてきたのは、茶色く焼きあがった皮の食感だろう。
まず姿がいい。
焦げた皮とそうでない皮の、茶と白のコントラストがいい。茶も白も、油と汁にまみれ、艶やかに光っている。
さあ早く食べろ。食べてみろ。餃子が誘う。
箸でつかむのももどかしい。タレに漬け、口に運ぶ。
ハフハフと熱さに気をつけながら、口に入れ、噛む。
「カリッ」。
焼けた皮を噛みしだく音が、響く。その音は、脳内にこだまして、体の芯を貫ぬいて、「ああ、俺はいま、餃子を食べているんだあ」という実感が、駆け巡る。
大げさではない。「カリッ」は、食べる感謝であり、生きている歓喜なのである。
「カリッ」。餃子の皮が弾けると、歯は柔らかな皮に包まれ、舌には熱々の汁と、野菜や豚肉の甘みが流れ出す。
一つの小さき体に、これだけの魅力を持つ焼餃子は、偉大だ。
「カリッ」も、もっちりも汁も餡も、それぞれにたくましく、主張のある焼餃子は、目まいを感じるほどのうまさがある。
今回の「カリッ」採集場所、「您好」の餃子は、まさしくそんな焼餃子である。
中でも「カリッ」は、餃子史上最強といってもいい。ご主人は、そこに苦労があったという。
「31年間餃子作ってるけど、少しずつ進歩してんだよ。この皮だってね。最初からこんなにカリッとはしてなかった。それでさ、何度も試行錯誤を繰り返したのさ。
中々うまくいかなかったなあ。でもある日テレビを見てたらね。ダイヤモンドの粉つけたフライパンが、テフロン加工よりパリッと焼けるというのを宣伝してたン。その時ぱっと思いついたんだ。そしてやってみたらこの通り。
え? ダイヤの粉つけてないよ。そしたらこんな値段じゃ出せないでしょ。ハハハ」。
そうか。
史上最強の「カリッ」には、一緒に職人の叡智と時間もこねられていたのである。
そのありがたみを感じながら、「カリッ」とやる。すかさず冷たいビールを流し込む。
再び箸は餃子をつかむ。「カリッ」。ああ、止まらない。
焦げ香属褐変食欲喚起系。
食材が加熱される過程で、茶色く変色し、複雑な香りを伴い、その音ともに、著しく食欲を刺激する変化。全ての焼餃子に見られ、永らく人類を魅了し続けている。
「カリッ」採取場所
幡ヶ谷「您好」。餃子の名店。一晩寝かせた自家製の皮と豚肩ロースを粗微塵にした餡は、餃子という料理の魅力を最大限に伝える。沙茶醤を使った漬けダレもいい。