96歳の看板娘。

食べ歩き ,

牧敏子さんは、百年続く和菓子店「盛華堂」の看板娘である。
早朝から、団子を作り、8時から夕方まで店頭に立たれる。
「いらっしゃいませ」。
店に入ると、静かで優しい声をかけられた。
弥勒菩薩のような、柔和な笑顔に、心が包まれる。
御年96歳になられたという。
「みたらしとこし餡を下さい」。
おねがいすると、たちどころに包んで、「ありがとう」と言って、また微笑まれた。
「この間はね、アメリカから来てくれたの」。
そう言って、その娘が書いた色紙を見せてくれた。
「一緒に写真を撮っていただけますか?」と、お願いすると、「場所はこちらがいいですよ」と、ショーケースをバックに立ってくれる。
撮られる際、そっと僕の手を握られた。
手のひらが、団子餅のように柔らかく、すべすべして、春の陽だまりのように暖かい。
僕は涙が出そうになるのを堪えて、精一杯の笑顔を作った。

愛知県吉良町吉田亥改「盛華堂」にて。