6月の終わりに、祇園浜作で鱧をいただいた

食べ歩き ,

6月の終わりに、祇園浜作で鱧をいただいた。
鱧が大好きだった谷崎潤一郎は、「鱧は赤いお椀が似合う」といって、朱塗りの椀で食べることを好んだという。
それとおなじ、朱塗草蒔絵椀に入れられた鱧は、凛として揺るぎない。
朱色の強さに負けぬ白き体躯を、誇らしげに輝かせている。
静かにこちらを窺いながら、「食べて」と囁くので、汁を一口飲んで、眼を閉じ、喜びのため息を吐いた。
そして鱧を口に運ぶ。
ふうわりと歯が包まれて、滋味がゆっくりと流れ出る。
脂が出すぎず、鱧自体の生命力に満ちた味の濃さが、舌を包む。
「ふうっ」。
堂々たる味わいを咀嚼して、一息つく。
管牛蒡や瓜を食べて、一息つく。
そうして再び、汁と鱧が抱き合い織りなす最後の高みに向かって、歩み出す。