人情の味がした。
一口すすった瞬間に、「うまいなあ」と、呟かせるたくましさがありながら、心が和む。
それは、東京オリンピックの年に生まれた。
当時、豚骨ベースの塩味は、珍しかっただろう。
だが、醤油ラーメンになれた東京人を虜にしたのは、スープの素直さである。
豚の拳骨と頭、鶏ガラでとるだしは、アクを徹底的に拾うため、臭みがない。
脂っぽさもなく、食欲を煽りながら、まろやかに舌を流れる。こ
のスープに、滑らかでのどごしがいい麺がからんで、笑顔を作る。
毎朝作る大きなワンタンは、練り肉のうまみに溢れ、ほおばる楽しみがある。
そこへ昔ながらの味が染みたシナチクと煮豚が参加する。
麺もワンタンも量が多いのは、安価でもお腹いっぱい食べてもらおうと考えた、創業者の人情である。
人情は53年間受け継がれ、今なお、僕らの心を温め続ける。
四谷「支那そば こうや」にて