1日1甘 , 食べ歩き ,

羊羹はあまり得意ではないが、水羊羹は好き。

僕の周りにはそんな人がたくさんいます。

きっとそれは、水羊羹に「儚さ」があるからではないでしょうか。

割烹「久田」の水羊羹が、まさしくそうです。

箱流しにされた一面の水羊羹は、淡い藤色が刺した色合いに、小豆の呼吸が眠っている。

その美しさに息を飲み、しゃもじですくって初めて食べた時には、「あっ」と言って、目を丸くしてしまいました。

北海道大納言を5時間炊き、手作業で仕上げているため、水気たっぷりで、崩れるギリギリの状態で固まっています。

口に運べば、ふうわりと溶け、噛むまでもなく消えていく。

みずみずしい豆の香りが鼻に抜け、品格のある甘味がさらりと舌を流れゆく。

あれ? 今食べたのか?

そう思うほどの儚い食感が、胸を突く。

その時です。

口に風がそよぐ。

「涼しいね」と羊羹が囁いて、涼風が吹き抜ける。

うだるような夏を、一瞬和らげてくれる、希少な水羊羹なのです。

 ただし一気に食べなくてはいけません。

時間置くと水気が流れ出て、ただの水羊羹になってしまいます。

この固さを生んだ勇気と技術に、まいったなあと笑いながら、涼しい夏を味わいに来ませんか。

 

門上さんは「紫野源水」のごま味