福井「崇」

う。
「近所の農家の方が作ったサツマイモのアイスと,栃餅のあずき汁粉です」。
「栃餅! 自分で作られたのですか? 大変でしよう」。
「小さい頃に、ばあちゃんがよく作ってくれたんです」。
手間暇が大変だろうという投げかけに青年は,作るのが楽しくてしかたないという顔をして答えた。
店の名は、「崇」(すう)という。
僕は勝手に、「気高く尊い」という意味を持つこの文字を店名にして,料理に励んでいるのだと推測していた。
しかし違う。
「この店は,僕のおばあちゃんの、すうばあちゃんが住んでいた家をリフォームしたんです」
だから店名を「すう」にした。
「おばあちゃんは、崇という字だったんですか?」
「いやひらがなです。崇は戒名なんです」と、答えた。
汁粉の底からぼってりとした栃餅が現れ、歯に舌にしなだれる。
米餅にはない野味があって、朴訥な滋味が心をゆする。
「ばあちゃんは、山の中に入って拾ってきた栃の実で作ってくれました。生きている間にどこで拾うのか、作り方も聞いておけばよかったと思います」。
青年は祖母に対する,素直な敬意を滲ませた。たがら彼は,近隣の老年農家の人たちから愛されているのだろう。
蟹しゃぶをいただき,カニを褒めるところを、思わず「ネギがおいしいっ」と,口ずさんでしまった。
すると彼は
「ありがとうございます。ネギを届けてくれた方に伝えます」。
満面の笑みを浮かべながら,そう答えるのだった。