銀座「ランドスケープ」

とっておきの酒をどうぞ。

食べ歩き ,

ハンドフィルとは、不便な場所にあるウイスキーの蒸留所に、わざわざ来てくれるウイスキー好きのために用意するのだという。
職人がよりによった樽を選び、詰めておく。
それを訪れた人が自らボトルに詰め、購入する。
それは、職人が、蒸留所が、本当に売りたかったものなのかもしれない。
同蒸留所の市販されているものとは、明らかに違う。
 
まずオーバーンを飲み比べた。
市販の14年オーバンと11年のハンドフィルである。
市販は、スモーキーでジューシー、ハイランドながらアイラのような塩気、ほのかに蜂蜜ような甘い香りがある。
飲み干すと、かすかにえぐみを感じる。
ハンドフィルは、どうだろう。
飲む前の香りからして、まったく異なる。
熟した香ばしさが鼻を惑わせ、飲めば、オーバンのよさが凝縮して、舌を舐める。
しかし素晴らしいのは喉に落ちた後で、さらにその魅力がふくらみ、いつまでも口の中に残るのであった。
 
次にボウモアを試してみた。
女王と呼ばれる品格がある。
だがハンドフィルはさらに高みにあった。
飲む前の香りだけでは、オーバンほどの差はなかった。
しかし一口飲むとどうだろう。
強く。
太い。
樽香やショコラの香りが漂い始める。
舌に入れた瞬間、丸く、濃く、樽香とビートが混然となった太い香りが転がって喉に落ちる。
瞬間舌の両端に、アルコールの強さがヒリヒリとキックするがしばらくするとそれが、甘やかさに変化し、余韻が永遠にたなびく。
時間を永遠にさせる液体である。
ボトルの香水と呼ばれたボウモアの、意味がわかった瞬間だった。
いいウイスキーとは水のようにするりと入っていく。
そう先人たちは論じていたが、僕は違うように思う。
いいウイスキーには、ウイスキー自らの意識が生きていて、、口の中で様々に変化しながら、めくるめく世界が広がっていく。
それゆえに良きウイスキーとは、価値ある時間と空間を買う液体なのである。