食べ歩き ,

「お燗も料理だと思うんです」。
「高太郎」店主林高太郎さんは言われた。
この日の圧巻の一つは、突き出しに続いて出された豆腐に合わせた「喜久酔特別純米」のぬる燗である。
滋賀のごんざという豆を使った池袋「大桃豆腐」製の絹ごし豆腐に藻塩をかけただけのシンプルな皿に合わせられた。
ぬる燗といっても、少しぬるさを感じる程度の日向燗に仕立てられた酒は、舌の上でそっと甘みを開く。
口の中に入れた豆腐が、豆の甘みと香りを広げ始めた瞬間に酒を少し呑み、合わせる。
するとどうだろう。
豆の甘みが柔らかくなって、ほんのりと色気が刺すではないか。
この組み合わせと温度を考えたのは、大和優菜さんという女性の酒担当である。
その後彼女は巧みな温度で肴に合わせ、あるいは二種の日本酒を合わせたり、赤ワインと日本酒を合わせて燗したりと様々な工夫で我々を喜ばせた。
「肴にどう合わせるかももちろんですが、お客様がどんな風に料理や会話を楽しんでいらっしゃるか、お酒の進み具合はどうか、それを感じ取って酒を選び、燗の温度を変えたり、常温や冷を選んでいくことが大事だと思っています」。
「高太郎」は、料理や酒が美味しいだけではない。
この林さんの言葉こそが、この店が人気居酒屋となった理なのである。