センスの輝きというものは、どんな小さな破片だろうが、心に届く。
それは鶏レバーのムースで，特には珍しくはない料理である。
ムースは，皿の片隅にさりげなくおかれ、食べられるのを待っていた。
口に運ぶと、レバーの甘い香りが，ゆっくりと広がっていく。
続いて，濃い、からみつくような甘い香りが立って、赤ワインの香りが色気を帯びて漂い始める。
最後にトリュフが香るのだが，秋トリュフ特有の、土の香りが漂い。ムースという人工物を自然へと帰していく。
今まで数多くの鶏のムースを食べたが、こんな複合的な香りでときめかすムースは、食べたことがない。
聞けば、鶏レバーと玉ねぎのムースに、牛のハツ脂を加えているのだという。
さらに赤ワインや、隠微さではない茸の香りがする秋トリュフを出合わせ、エレガンスを生み出す。
なんという優美な香りの構築だろう。
最初の一皿でやられた。
だがそれはまだ序章だったのだ。