「今日の昼は、天ぷらを食べに行かないか」。
「わーい、やったあ」。
「ママはどうだい?」
「もちろん大賛成よ」。
そんな幸せな光景が見えてくる。土曜の昼下がり、「天すけ」には、カップルに交じり、家族連れが二組並んでいた。
店内では、天ぷらを肴に、昼からビールの初老男性二人組、二十代カップル、そして親子連れ。
みんな天ぷらが好きなのだ。
毎日体重計に乗るママも彼女も、「天ぷら」と聞きゃあ、心が揺らぐのさ。
この行列こそ、日本の正しい姿なのである。
むろん他にも理由がある。
「値段が安い」。
「揚げたてを気軽に食べられる」。
「名物玉子の天ぷら」。
以上の三つが「天すけ」の人気の理由である。
一番人気が「玉子ランチ」千二百円。
天ぷらの盛り合わせに、玉子の天ぷらを乗せた小丼のご飯がつく定食である。
しかしここはあえて、「天丼玉子」千二百円を頼んでみた。
丼の上には、天つゆに潜らせた、海老、イカ、キス、ピーマン、茄子が鎮座している。
そして手前には、玉子の天ぷら。
玉子の天ぷらと言えば、新宿「つな八」が有名で、黄身だけに衣をつけて、半熟に揚げるやり方で知られている。
しかし「天すけ」は、仕事が違う。
鍋の油に、直接玉子を割り落とし、上から衣を、菜箸で散らし落とす。
いきなり熱い油に落とされた玉子は、たまったもんじゃない。
黄身を守らんと白身が黄身を包んで固まり、その周囲で、衣が所々に覆っている。
ご飯に乗った玉子天を割れば、黄身がつつぅと流れ出て、思わず顔がにやけてしまう。
黄身の甘みと油のコクが相まって、ご飯を勢いよく掻き込ませる。
だが天丼では様子が違う。
甘辛いつゆの染みたを天ぷらで、つゆが染みたご飯を食べたいという欲望があるがゆえ、玉子が染みたご飯では、ちょいと勢いが出ない。
その代わり、エビやイカを、玉子天の黄身にチョンと浸けて食べると、実に具合がいい。
甘みが複雑になって、ご飯が余計に恋しくなるのである。
さてあとは、どう食べるか。
僕は、海老、イカ、キスは、前半に半分食べ、野菜天に移行し、また魚介に戻るやり方だ。
さらに、魚介に戻る頃合いで、天ぷらを一つ追加する。そうだ今日は、メゴチにしよう。
この店では、旬の素材も単品で数多く用意されているので、こうしたわがままもきく。
すると、魚介を食べ終えた頃に、天つゆを潜らせた揚げたてメゴチが、ご飯に乗る。
そう、ご飯はこれを計算に入れ、メゴチ分残しておく。
小さなメゴチは嬉しいことに、三匹並べたいかだ揚げ。
さあ後は、熱々のこいつを齧り、ご飯を掻き込むだけだ。
メゴチ一つ三百五十円追加で、今日は千五百五十円。
ううむ。贅沢したぜい。