魚のすり身に、パン粉をつけて揚げようと考えついた人は、天才だ。
まあさつま揚げも、すり身の揚げ物だから、同思想上にあるともいえなくもないが、すり身のフライには、飛躍的発想力がある。
フライという西洋的アプローチと、日本的土着色が濃いすり身とのミゾを、なんなく埋めちゃったんだからエライ。
しかも、うまいんだから、なおさらエライ。
最初に出会ったのは、渋谷の佐賀料理の店で、「魚ロッケといってね。佐賀人はみんな、しいとーよ」と,ご主人に出されたのであった。
ちょいと下品で、うまいんだな、これが。
ご飯のおかずにも、酒の肴にもなる。
学校帰りの、立ち食いおやつ時にも最強となる。
自然と子供のような笑顔が浮かんでしまう、食べものである。
ハムカツが下校時の楽しみだった関東人の僕も、ちょっと羨ましくなった。
所変われば名も変わる。
佐賀では「魚ロッケ」だが、徳島では、「フィッシュカツ」と呼ぶ。
徳島愛に満ちた「名西酒蔵」では、そのフィッシュカツが楽しめる。
魚ロッケの楕円とは違って、四角く、衣が決め細かい。
噛めば、「カリリ」と音が立ち、カレー風味の衣が破れ、すり身の味が舌に甘えてくる。
ほの甘いすり身の味に
衣の香ばしさが加わり、心が和む。噛みしめがいのある、愛らしい薄さもいい。
そこには魚のフライとは、明らかに違う宇宙があって、すり身とパン粉への強い愛がある。
その愛に焚きつけられて,ついおかわりしてしまう。食べると愉快になって、元気になる。
恐らく、元気で明るく、気働きがいい「名西酒蔵」の人たちも、毎日食べているに違いない。
写真はイメージ