<蓋を開けると、そこは雪国だった。>

食べ歩き ,

<蓋を開けると、そこは雪国だった。>
おかゆが、静かに降り積もっている。
匙をおかゆの中に差し込み、ゆっくりと持ち上げる。
すると、艶めかしく輝く白き肢体が現れ、おかゆにしなだれた。
「フグの白子のおかゆ」である。
一口食べると、官能がぐにゃりと揺れ、背骨が溶けた。
「ううっ」。
もはや呻き声しか出せない。
米の甘みと白子のうま味が、完璧に丸く、一つの宇宙を形作っている。
この世の原初から、二つの食材は出会う運命にあったのだ。
人間の智慧を超えて、米も白子も喜びの声をあげている。
白子は米を称え、米が白子を優しく抱きかかえる。
互いの慈愛が味となって、我々の心に火を灯す。
食べながら涙が出そうになったおかゆは、初めてである。
「お米と白子を合わすことを考えたのはいいんですが、それから苦労しました。お米をどれだけの粥具合にしたら白子の柔らかさと合うか。白子を一緒に炊いたり、上に乗せたり、すりおろしたり。お米と白子の量のバランスをどうするかなどいろいろ試して、ようやくこの形になりました」。
おかゆの感動を伝えると、片折さんはそう話してくれた。
“食材を生かす“という言葉がよく使われるが、それはどこまで人間が食材に対して誠実になれるかということかということを、この料理が証明している。
そうしてこそ初めて、料理は美しさを得る。
金沢「片折」の全料理は、別コラムを参照してください