男前だ。潔い。
なにがって、料理の名前である。
一言「ガーリックオイル」ですから。
油愛好者を、これ以上刺激する料理名はない。
パスタの欄に載っているので、にんにく風味油をからめたスパゲッティだとは、想像がつく。
だが、詳細はわからない。
英字表記では、サルサ・アリオ・オーリオとある。
ニンニク油ソース。
なんだおなじみの、アリオ・オーリオ・ペペロンチーノか。
でも別の料理、「ガーリックソース」とはどう違うの? なぞは深まる。
注文すると、厨房からニンニクを刻むリズミカルな音が聞こえてくる。
その音に心弾ませながら、待つこと7~8分、ついにガーリックオイルが登場した。
皿の上には、なんと素のパスタ。
具がない。
茹で上げて、皿に盛っただけのスパゲッティが、湯気を上げている。
そして添えられしソースポットの中で、湯気を立ち登らせているのが、ガーリックオイルである。
たぎった油の中には、極微塵のニンニクが浮かんでいる。
これを素スパにかけて食べろというのか。
いやそうではない。
卓上の唐辛子の微塵切を素スパにふりかけ、その上から、好きなだけオイルをかけなさい、という段取りなのである。
各自の責任において、油量と辛味量を調整し、摂取せよ、という命令である。
よおし、やったろうじゃないか。
唐辛子を多めにかけ、その上からレードル一杯分の油をかけた。
ジュジュッ。
唐辛子が音を立て、身をよじる。そこですかさず緬をからめる。
ツルンと食べれば、麺自体につけられた塩気がほどよく、そこへ油のコクが加わって、食欲を掻き立てる。
麺と同時に口元に昇ってくるニンニクが、カリカリと音を立て、その香ばしさが後を呼ぶ、
大量に入ったにんにくチップは、均等な茶色の色合いで、一粒とも焦げたものがない。
当然焦げ臭も苦みもなく、スパゲッティを食べる勢いに、拍車をかける。
これはなかなか難しい技だろう。
「カプチノ」の創業は、昭和四十五年。
パスタという言葉もなく、ナポリタンやミートソースしかなかった時代である。
先代のご主人は、馴染みのないイタリア料理を、下町の人に親しんでもらえるよう、日々工夫を重ねたのだろう。
その苦労の結実が、このパスタとなった。
お客さんがめいめいに味を完成させる面白さがあり、それは好きなだけ辛味や油を調整できるよう計らった、下町の心意気が詰まった料理なのである。
さてこのガーリックオイル、レードル二杯強が適量である。
意地で全部かけてみたが、強力な油感に襲われた。
唇や口腔内が、油で、テカテカ、デラデラとなる。
そして食べ終えた皿の底には、満々と油の海が、横たわっていた。