根岸「香味屋」

<東京玉子サンド6傑>1

食べ歩き ,

創業90数年となる老舗洋食店の「タマゴサンド」1150円は、清楚な佇まいである。

薄黄色のスクランブルエッグが、緑のパセリを乗せた白いパンに、端正に収まっている。

いや玉子は、一見大人しそうに見えるが、スキあらば、パンからはみ出そうという勢いがある。

それを白いパンが、冷製に押さえ込んでいる。沈着と熱情がからみ合う姿に、ごくりと唾を飲み込む。

口に近づければ、良質なバターの香りが鼻をくすぐって、「ああっ」と、言葉を漏らす。

歯は、温めたパンにふわりと包まれ、その幸せに目を細めていると、玉子が現れる。

歯の圧力で押し出された玉子が、とろとろと舌に広がっていく。

バターのコクと空気を抱いたスクランブルエッグ優しい甘みがとろんと溶けていく。

その食感は、玉子が割られて固められてしまったことを、まだ知らないのかもしれないと思わせるほど、官能的なのである。

それはシェフが、火加減に気を配り、慎重にかき回して生まれた官能であり、玉子への限りなき愛が、姿になった官能である。

この玉子サンドには、パンと玉子という蜜月を深くし、強固にし、決して裂くことのできない運命とした、人間の思いが込められている。

できれば昼下がりに店を訪れ、ミルクティーを従えて、ゆっくりゆっくりと、時間をかけてほおばりたい。