<シリーズ食べる人>立ち食いそば編VOl5

食べ歩き ,

<シリーズ食べる人>立ち食いそば編VOl5
言いたいことは山ほどある。
体を、前後に揺らしながらそばを食うな。
そこまで唐辛子をかけなくてもいいだろう。
食べるのが遅い(後から来て注文した三人がすでに食べ終えた。四人目のボクも、先に食べ終えそうだ。大の大人が、なにもたもたしてやがんだ)。
サングラスかけたまま、そばを食うな。
口を開けて食うな。
一回そばをすすると、天を仰いで、くちゃくちゃとしやがる。
よく噛みてえ気持ちはわかるが、そばってぇのは、立ち食いそば屋のそばってぇのは、丼に集中して顔を上げず、一気呵成につつぅーとやるもんじゃねえのかい。
足を、頻繁に組み替えながら食うな。
左のひじにぶら下げた紙袋を何とかしろ。
ここは立ち食いそば屋である。
その紙袋が、客一人分占領してんのが、わかんねえのか。
足元に置け。
女を待たせながら食うな。
待たせてんのなら、なおのこと早く食え。
つゆの飲みすぎじゃないか。
半分食い終えているようだが、すでにそばつゆがない。
全然ない。
派手な男だった。丸坊主にピアスにサングラス。
紫のT シャツに白い短パン。紫のバッシュー。
しかも推測身長190センチ。ガタイもでかい。
どうやらタイの方のようである。
外に待たせた女性との会話で判明した。
それなら、仕方ない。食べる速度とサングラス以外は、許してやろうと思っていたら、「葱ください」と、滑らかな日本語で追加しやがった。
おばさんが優しく追加すると、
「ありがとう」。
慣れてんのなら、許してあげないよ。
おじさんは口には出さないけど、怒っちゃうもんね。
大体、立ち食いそば屋には、行儀の悪いやつが多い。
立ち食いなんだから、簡易食事なんだからという甘えがある。
それでは立ち食いそば屋さんに失礼だろう。

昔、中野駅北口にあった立ち食いそば屋で、
「あーおいしい。おいしいなぁ」と、そばをすするたびに、独り言をつぶやいている男に出会ったことがある。
なんとも微笑ましく、心がぬくむ光景だった。
あるいは昔、恵比寿駅構内にあった立ち食いそば屋では、一人の男がそばを食べ終えると、
「ごちそうさん。つゆ、おいしかったよ」といって、男が立ち去った。
そば屋のご主人は、若い手伝いに
「ほらな。一生懸命やってれば、わかる人には通じるんだよ」と笑った。
いい話である。
ただし残念ながら、この店のそばつゆは、どう贔屓目で考えても、一生懸命やっている味ではなかったけど。