<シリーズ食べる人」>居酒屋編3

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<シリーズ食べる人」>居酒屋編3
奥様公認酒場、湯島「岩手屋」で。おっさん(推定69歳)が、いきなり叫ぶ。
「きばれ岩手じゃない。やってるよ岩手だ」。

店内は、常連岩手県出身のおっさんでひしめいていた。
隣のおっさん(推定70歳)が、突然話しかけてきた。
「俺は嫁さんボランティアでもらったんだ」(なんでいきなり嫁さんの話?)
「あんたもそうだろ。そうでもなきゃやってられないもんな、ガハハ」。
「でもね」。
「かみさんも、ボランティアで嫁に来たのよ。ガハハ」。
別のおっさんは、勘定の段になって。
「いくら?600円? あれおかしいな。さっきも払ったよ」。
「ん? 今晩は二回目だって?」
「さっき勘定払ってから、また酒頼んだと?」(店の度量が広い)
そのおっさんが帰ると、隣にいたおっさん(推定72歳)が、にじり寄ってきた。
(私はどうやらおっさんに好かれるらしい)
「エイジシュートは難しいんだよ」。
(なんでおっさんは,こうも脈略がないのか)
「あんたもゴルフやんだろ」
(なんでおっさんは決めつけるのか)
「俺もしょっちゅうゴルフやっててね。エイジシュートなんて簡単と、思っていたら、60過ぎたらどんどん下手になってね」。
と、どんどんしゃべる。
やがて僕のつまみの南部せんべいに気付き
「南部せんべいはね、ゴマの香りがいいね。でも一番の魅力はうますぎないというか、出過ぎない味なんだな。えへん」(いきなりえばった)。
真面目でしっかり者,おとなしく粘り強く頑固,要領が多少悪くても着実に事を為しとげるといった,愚直さの県民性が通じているのか。
南部せんべいにバターを付けながら酔仙を飲む。
「まつも」をちびちびやりながらの酒がいい。
そのおっさん。
「毎月、日曜祝日を除いた13日、同じ店で、同窓会やってるんだ」。
案内状も何も作らないため、何人来るかわからないのだと。
「でも今日は14人来たよ」と、うれしそう。
何も頼まず、酒一合だけ飲んで
「先に帰ります。またここでね」と言って、しわだらけの顔に幸せそうな笑顔を浮かべた。