<インド風カレーの罠は、ご飯とソースを入念に混ぜてこそ深くなる>

食べ歩き , 寄稿記事 ,

食都東京。

江戸時代から続く豊かな食文化と世界各国の料理が溢れる、世界一のおいしい都市。その食都の美食を紹介し、おいしくて安い店で投資に値する喜びを得る技を伝授せよ。

以上が本コラムに託された使命である。

ふー大変だ。ということで第一回目は「インド風カレー」である。

インド風とわたしが勝手に呼ぶのは、インド料理に日本人の創意工夫を加えた、専門店のカレーのこと。

その代表格が「デリー」である。

昭和31年2月28日、日本人経営者が生んだカレーは、今までにないスープ状であること、漆黒に近い焦げ茶であること、カレー粉をまったく使用しない事、そして複雑な香りと激的な辛さで、日本人に衝撃を与えた。

頼むべきはもっとも辛く、もっとも味に奥行がある「カシミール」である。

米粒の間を染み落ちるソースをよく混ぜて食べれば、酸味、苦味、深い滋味が舌を通り抜け、重なったスパイス香が鼻を刺し、強烈な辛みが爆発する。

食べ進むごとに増す高揚感と食後の放心は、店を出て三日もたつと、恋しくなって、無性に食べたくなる。

実はここにこそインド風カレーの罠があるのであった。

それはインド料理に惚れた日本人が、カレーの命である刺激的な香りは生かしながら、日本の米と調和するよう考え抜いた罠なのである。

基本的にインド料理のサラサラソースは粘り気のないご飯が合うが、インド風はサラサラながら、日本のご飯に合う旨味を加えて相性を高めている。

だからこそ日本人の心を捉えるのだろう。

 

そんな罠を実感するには「エチオピア」に行けばよい。

口に入れた途端に強烈なクローブの甘苦い香りが破裂する野性的なカレーだが、もっちりと炊かれたコシヒカリのご飯と妙に合う。

それは奥底に隠れた牛筋や野菜類によるスープの優しい旨味が、ご飯を呼びこむのである。さらにいえば、カレーに溶け込んだ旨味の要素が突出する事なく、丸みを帯びているからこそ、ご飯となじむのだともいえよう。

 

一方罠をさらに進化させたのが「たんどーる」である。

インド料理と日本人の接点を探し出そうと試行錯誤をくり返したご主人は、黒胡麻、蓮根、大根、ゴボウなど、和の食材を巧みに駆使したカレーに行き着いた。

中でも傑作は「鶏肉の梅カレー」だろう。

梅干しの酸味と紫蘇の葉の香りが見事にスパイス香と調和したカレーは、ご飯を猛烈に呼ぶ。彼のような勇気と才気に富んだ料理人が増えれば、今後のカレー界はさらにおもしろくなるに違いない。

最後にインド風カレーの店ではご飯を頼み、入念に混ぜて食べよう。そうして一体化させてこそ罠が生き、カレーライフは燦然と輝くのである。