麻婆豆腐はご飯にかけない

食べ歩き ,

麻婆豆腐はご飯にかけない。
出されたら、まずは麻婆豆腐だけを食べ進む。
花 椒をもらい、適時痺れを追加する。
三分の一ほど食べたら、辛さや痺れ、うま味を、白いご飯で受け止める。
水は一切飲まない。
スープが添えられても、飲まない。
辛さや痺れの攻撃から逃げたくないからである。
次第に増してゆく、辛さや痺れを受け止め、汗や涙の流出を喜びとしながら、食べ進む。
三分の二まで進行したら、ご飯との合体の時である。
通常はご飯に麻婆豆腐をかけるのであろう。
それもまた良し。
だがそれでは完全なる合体には至らない。
ご飯を麻婆豆腐の皿に入れ、米の白さがなくなるまで混ぜたら、スプーンですくって、食べて見よう。
そこにはもはや、麻婆豆腐とご飯の境界線がない。 
米は麻婆豆腐の強さに吸収されながらも、かすかにご飯としての主張があるだけさ。
そんないじらしい渾然一体感に惚れちまう。

スーツァンレストラン陳にて。