鹿を噛みしだく。
ゆっくりと噛みしだく。
血の香りが膨らんで、命をいただく感謝がせりあがる。
次に、野生ならではの気高さが、滋味となってにじみ出る。
血の猛々しさと、汚れなきエレガントな鹿のエキスが、舌の上で舞い、我々はその対極に翻弄されながら、自然の壮大さに心震わす。
添えられた鹿のパイは、フィユタージュの厚さが精妙で、これ以上でも以下でもない軽さが、肉を抱き込んで、笑みを呼ぶ。
見事に鹿の鹿たる気品と野性を引き出した菊地シェフのエスプリに包まれて、年を終える幸せよ。
「ル・ブルギニオン」にて。