京都「浜作」

鴨料理の多楽章

食べ歩き ,

その鴨料理は、最初は静やかに、伸びやかな味わいで始まり、次第にクレッシェンドして、堂々たるフォルテシモで圧倒し、コーダでは、美しい余韻を残して消えていった。
1皿目は、叩きをその場であわせて、鴨のだき身をそぎ切りする。
つゆに青ネギをどっさりと入れ、つくねをまとめて入れていく。
淡い淡い味わいに仕立てたお椀だった。
鴨はまだ野生を出しきらず、そっと汁の中で佇んでいる。
2皿目はつくねと麩の小吸い物が運ばれた。
濃いめに仕立てたつゆの中から、つくねの滋味が溢れ出す。
その小さな勢いが、胸を突く。
3皿目は、おろしと酢橘を添えた鴨の抱き身炭火焼きである。
グッと歯に力を入れると、凛々しい鴨が顔を出す。
ああ。噛むほどに味わいが深まっていく。
4皿目は、抱き身と肝と骨を入れた叩きのフライパン焼で、焼いてから酒割下が絡められる。
抱き身は、より味わいが豊かになって、方やつくねを食べれば、肝の甘みと香りが肉の鉄分と抱き合う勇壮な味わいが迫ってくる。
その味に唸りながら、時折コリッと弾む骨のリズムが、楽しい。
5皿目は、土鍋で炊いた抱き身であった。
おお。鴨の滋養は極まった。
たぎる血を感じさせる鉄分の滋養が、舌と鼻をを炊きつけ、上気させる。
そして最後は、鴨にゅうめんが運ばれた。
なんと穏やかな味わいだろう。
その静かな気品が、今まで食べてきた鴨肉への感謝を浮かび上がらせる。
「浜作」の素晴らしき鴨料理の多楽章である。