削りたての鰹節を入れてとつた出汁を、盃で飲む。
恒例の「片折」での供し方である。
「今日は少し、いやかなり鰹節が強い」。
一口飲んでそう思った。
やがて出されたのは、「蟹のしんじょ椀」だった。
腕の蓋を開けた瞬間、蟹の甘い香りが湯気となって立ち上る。
目を細めながら、つゆを一口すすった。
するとどうだろう。
鰹節の気配は消え、昆布の存在が立ち上がってくるではないか。
蟹の香りが鰹節の香りを包み込むのか。
蟹のエキスが、鰹節の個性を懐柔するのか。
その魔法はわからない。
品のある蟹の甘みと昆布の旨味がつゆに溶け込んで、心を豊かにする。
厳冬の日本海に潜む豊穣が、溶けていく
食後に片折さんと話した。
「そうなんです。何度も試作をしたんですが、鰹節が消えるんです」。
そのため、わざと強くしているのだろう。
料理は深い。
金沢「片折」にて