鯛茶漬けはゼータクである。
鯛の刺身だけでも十分美味しいのに、さらにゴマダレに漬けてご飯を恋しくさせ、その上でお茶漬けにしてしまうという発想が、豪気である。
そんな鯛茶漬けが食べたくなると、まっしぐらに銀座の「あさみ」を目指す。
漬物と小鉢が運ばれ、鯛が登場する。
山葵を乗せた鯛の刺身が、ゴマダレに半身浴している。
すかさず混ぜ合わせる。
タレにまみれる白き鯛。
うふふ。
輝くご飯が手渡される。
鯛を一口、すかさずご飯。
次に鯛をご飯に乗せて一口。ご飯に山葵を載せ、鯛のしなやかな身でご飯をくるんで、一口。
お茶漬けにせず、そのまま食べ進みたい衝動を抑えながら、冷静に残り枚数を計算し、四切れを残す。
心のせめぎあいに勝った四切れの刺身が、熱々ご飯の上で沈黙している。
茶をかける。
とたんに肢体を乳白色に染めていく。
我慢できない。
今すぐ掻きこみたいという気持ちをぐっと抑え、茶碗に蓋をする。
十を数える。おいしくなれと願いながら、数を数える。
蓋を開ける。
茶碗を片手に取る。
あとはわき目もふらず、一気呵成に掻き込む。
熱が加わり甘味の増した鯛、ゴマの香り、醤油のうまみ、茶の香りや苦味、米の甘味、山葵の香りが、混ざり、竜巻となって舞い上がる。