隣の席で、7歳くらいの孫娘がおじいちゃんに尋ねた。
「ねえ、なんで伊勢うどん頼むん?」
「それはな、安くてお腹が膨れるからや」。
「そうかあ」。
昔ここで、初めて伊勢うどんを食べたことを思い出す。
「起矢食堂」は、高い評判ながら、地の利が悪いために客はまばらである。
「甘い」。
「コシがない」。
「具がない」。
伊勢うどんは、お世辞にもよそ者には理解できない魅力を併せ持っている。
こういうものは、期待薄から入れるからいい。
甘辛いタレをよくよく混ぜて食べる。
おお。太さがいい。
太いうどんが唇を通過するときの存在感が他にはない。
もちちというよりねちゃねちゃと、口の中で粘る。
その粘りと甘辛さが似合う。
この太さでコシがあったら、一体感は生まれないだろう。
唐辛子を途中でかける。
ちょっと飽きてきたところで、生卵を追加。
白身のぬるっとした食感と黄身の味が加わり、甘みが優しくなる。
ああこれは。
すき焼きの最後に割り下に入れ、真黒くなるまで煮こんで食べるうどんだな。
あれもコシが合ったら似合わないものね。
450円だもの。
玉子50円だもの。
どこにもないから、名物なのさ。
みなさん、伊勢うどんを食べる時は、十二分に注意しましょう。
勢いよく食べなくとも、気を付けていても、かなり曲者です。
ちなみに僕は、白シャツの一部が、焦げ茶のドット柄になりました。
ねえ、なんで伊勢うどん頼むん?
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