高知県うどん食べ歩きの面白いところは、バリエーションの豊かさにある。
各店舗うどんのタイプが違う。
つゆも違えば、看板メニューも異なる。
これが隠れうどん県たる実力なのである。
今回はさらに素晴らしいうどんの店があると聞いて、黒潮町へと向かった。
街道に面した店は「いろりや」という。
入るとすぐ右手側は、店名となった囲炉裏部屋で、左手がテーブル席になっている。
うどんをいただく前に、「青さのり天ぷら」220円に、こじやんと冷えたキリンビールを注文する。
サクサックと衣が軽やかに砕け散ると、アオサ海苔の香りが広がり、鼻に抜けて行く。
そこですかさずビールを飲む。
ああたまりません。
香り、微かな苦みなど、濃厚な青海苔の味わいがあって、舌の上でねろねろやってると甘みが出てくる。
そこですかさずビールを飲む。
店の奥には田んぼが広がり、のどかな景色を見ながらの昼ビールを飲む。
他では味わえない、この時間が愛おしい。
さあいよいようどんである。
まずはその実力を推し量るために、ざるうどん550円を頼む。
ああ、これは、なによりもうどんがいい。
ツルツルっとなめらかな唇あたりで、もちもちとしている。
最初は優しい食感に感じるが、うどんの芯にコシがある。
温和ながら芯の強さがある女性のようで惚れちまう。
次に「釜玉うどん682円」もいってみた。
放飼玉子と特製宗太節醤油だという。
温かくなったうどんは、小麦の甘い香りを漂わし、そこへ卵の甘みと醤油の品のいい旨味が絡み合う。
このうどんには、柚子をこじゃんと絞るとうまいぞ。
次に登場したのは、「力豚のカレーうどん」880円であった。
力豚とは大月町の松本さんが作ったというブランド豚である
カレー味が丸い。
豚のほの甘い滋味が、カレースープに溶け込んで心が穏やかな気分となる。
ううむ三者ともに捨てがたい。
どんな味わいでもうならせるのは、うどん自体に魅力があるからだろう。
その秘密を、店主周治輝峰さんにうかがってみた。
粉は、国産小麦粉の薄力粉中心で、うどんの背骨になるくらいの強力粉使っているのだという。
だからあのなめらかさが生まれ、芯にコシを忍ばせているのだな。
さらに重要なのは、いい練りであり、熟成時間だという。
熟成が進みすぎると、劣化が早い。
季節や気温、湿度によっても寝かせ方が変わってくる。
夏は朝5時打って寝かせると、昼の開店にちょうどよくなる。
しかし今回いただいたうどんは、昨晩に練ったものに、今朝5時半練ったものを混ぜて、暖房かけて寝かせたという。
「人間は震えていますが、うどんは冷暖房付です」。
周治さんは、そういって笑われた。
朝も早く重労働だろう。
しかしお顔にはそんな苦労など微塵も見えない。
うどんが好きなのだろう。
お客さんに美味しいうどんを食べてもらいたいという一心だけがあるのだろう。
そんなうどんを食べられる我々は、なんと幸せなのだろう。