「できたよ」。趙楊さんが鍋の蓋を取った瞬間に、目が眩んだ。
鍋の中が輝いている。
いや実際は輝いてはいないのだが、きらめく光が解き放たれて、空間に拡散していくような感覚だった。
「黄金砂鍋」。上海蟹の卵をたっぷり使い、フカヒレ、すっぽんの卵、松茸、干し貝柱を入れた砂鍋である。
黄金色の液体がレンゲに乗って、口の中にゆっくりと流れていく。
「はぁ〜」、思わず吐息が漏れた。
卵のうま味が、命を宿す甘みが、貝柱の滋味に溶け合い、てれんと舌を包み込む。
丸く、優しい。そしてどこまでも思いやりがある。
飲みながら、ため息をつきながら、精神がほぐれていく。
心がふにゃふにゃになって、官能が弛緩する。
だからといって、うま味の圧倒ではない。
我々の細胞一つ一つを穏やかに撫でながら溶かす、慈愛がある。
鍋の中が輝いている
食べ歩き ,